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フェローシップ制度
(社内外・国内外への派遣・留学をし技術習得を支援する制度)
受講者:室井先生レポートvol.10

こんにちは。月日が過ぎるのは早く、新年が開始してから既に2ヶ月が経過しました。カリフォルニアでは寒く感じる日が少なくなりました。2月のサンフランシスコでは、いくつかの企業が人員削減を発表しました。特にAIやバイオテクノロジー関連のスタートアップが投資の減少に直面し、事業の縮小を余儀なくされるケースが増えています。この変化はカリフォルニアの経済に大きな影響を与えています。また、ロサンゼルスでは大規模なストームが発生し、市内の一部で洪水が起こりました。気候変動の影響も指摘されており、カリフォルニア州政府はインフラ整備の強化を急ぐ必要があると発表しました。特に、都市部の排水システムの改善や気象予報技術の向上が求められています。さらに、カリフォルニア州では環境保護に関する新たな政策が発表されました。ファッション環境責任法と呼ばれ、大手ファッション企業に対して環境リスクの特定と対策を義務付ける法案であり、現在のトランプ政権の方針とは対になる法案なので、可決されるか注目です。

カリフォルニア大学デービス校のAdvanced Surgeryセンターで膝蓋骨内方脱臼(Medial Patella Luxation; MPL)の手術に参加しました。膝蓋骨内方脱臼とは、犬で多く見られる整形外科疾患で、膝蓋骨(膝のお皿の部分)が正常な位置から内側にずれてしまう状態を指します。この疾患は特に小型犬に多く発生し、遺伝的要因や成長過程での骨や筋の異常が関係していると考えられています。MPLの治療には、跛行や筋肉量の低下など症状を呈している場合は手術が適用となります。手術方法には、脛骨粗面転移術(Tibial Tuberosity Transposition; TTT)、関節包の縫縮といった軟部組織の補強術に加え、新しいデバイスを用いた半円柱状滑車溝形成術(Semi-Cylindrical Recession Trochleoplasty; SCRT)を活用しました。SCRTは滑車形成術の変法で、膝蓋骨が安定して大腿骨の滑車溝内に収まるよう半円柱状に溝を形成する方法です。この技術の利点は、関節軟骨を最大限温存しつつ、膝蓋骨の安定性を向上させる点にあります。そして、ブロック状滑車溝形成術と比較して、大腿骨遠位骨折のリスクを低減できる可能性があります。

手術の際、まずSCRTを施行し、膝蓋骨が適切な位置に保持されるよう調整しました。その後、脛骨粗面転移術を行い、脛骨の付着部を適切な位置に移動させてインプラントで固定することにより、膝蓋骨の再脱臼を防ぎました。さらに、内側の関節包の張力を適切に調整し、安定性を向上させました。この手術に立ち会ったことで、膝蓋骨内方脱臼の治療に関する知識が深まり、特にSCRTの手術手技の細かいポイントを学ぶことができました。手術の際の解剖学的な理解や、各手技の適応を正しく判断することの重要性を再確認しました。今後は、この経験を生かし、自らの臨床現場で適切な治療を提供できるように努めたいと考えています。

2月下旬には、サクラメントを訪れ、カリフォルニア州の歴史を学ぶ機会を得ました。サクラメントはカリフォルニア州の州都であり、ゴールドラッシュ時代に発展した都市です。19世紀中頃、サクラメントはゴールドラッシュの中心地の一つとして多くの移民が押し寄せ、経済の発展に大きく貢献しました。現在でも、その歴史的な建造物が多く残っており、当時の面影を感じることができます。また、サクラメント鉄道博物館(California State Railroad Museum)を訪れました。この博物館は、アメリカ西部の鉄道開発の歴史を紹介する施設であり、ゴールドラッシュの時代から現代に至るまでの鉄道の進化を学ぶことができます。館内には蒸気機関車や歴史的な客車が展示されており、実際に車両内を見学することができました。特に、19世紀の鉄道建設において中国系移民が果たした重要な役割についての展示は印象的でした。彼らの労働により、困難な地形を克服し、大陸横断鉄道が完成したことが強調されていました。サクラメントの歴史を学ぶことで、カリフォルニア州がどのように発展してきたのかを深く理解することができました。また、鉄道の発展が経済や社会に与えた影響についても考えさせられる経験となりました。

2月は、手術見学や歴史学習を通じて、獣医学とカリフォルニアの文化について多くのことを学ぶ機会となりました。UCデービスの手術センターでの経験は、今後の臨床において役立つ知識を得る貴重な機会でした。
また、サクラメントへの訪問を通じて、カリフォルニアの歴史や文化の背景を理解することができました。今後もこうした学びを活かしながら、より良い獣医療の提供を目指して努力していきたいと思います。

このような活動を通じて得た経験や知識を、皆様と共有できることを嬉しく思います。引き続き、私たちの活動にご関心を寄せていただければ幸いです。今後ともよろしくお願い申し上げます。

カリフォルニア鉄道博物館

Davisに到着したAmtrak(アメリカの長距離列車)

室井 謙宏

プロフィール:
日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業
日本獣医生命科学大学付属医療センター 整形外科研究生
日本獣医生命科学大学 獣医外科学教室大学院生
日本獣医生命科学大学 獣医学博士号取得
イオンペット動物病院 勤務

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